【医師対談】眠れていますか? ~睡眠時無呼吸と循環器疾患の深いつながり~

出演:理事長 白濱 龍太郎 × 横浜労災病院 循環器内科部長 柚本 和彦

1. なぜ今、循環器内科医が睡眠に注目するのか
白濱:先生は横浜労災病院で循環器内科をご専門とされていますが、地域の医療連携の場でもお会いすることが増えましたね。先生の外来では、睡眠との関係を意識されることはありますか?
柚本:外来でも、検査の場面でも、眠そうにされている患者さんは珍しくありません。たとえばPCI(経皮的冠動脈インターベンション:心臓の血管を広げるカテーテル治療)の際に無呼吸の傾向が疑われる方もいます。循環器の病気を持っているから眠れない、眠れないから循環器に負担がかかる、という両方向の関係があると思っています。
白濱:まさにそうですね。夜間の無呼吸が繰り返されると、交感神経が過剰に活性化され、血圧が上がり続けます。これが積み重なって高血圧や不整脈、ひいては心筋梗塞や脳卒中につながることが、さまざまな研究で示されています。
柚本:睡眠時無呼吸症候群と心房細動(Af:心房が不規則に震える不整脈で、脳梗塞のリスクを高める)の関連については、学会のガイドラインでも整理されてきましたね。意識を持って学び直している循環器内科医も増えている印象があります。

2. 「症状がない」患者さんこそ、実は危ない
白濱:循環器内科の外来に来られる患者さんの中で、睡眠時無呼吸症候群を疑っても、なかなか検査につながらないケースもあるのではないでしょうか?
柚本:正直に言うと、患者さん本人から自覚症状の訴えがないと、検査オーダーまで踏み切れないことがあります。外来は時間も限られていますし。ただ、見た目でも気づくことはあって、BMI(肥満度)が高い方や首回りが太い方は、明らかに疑います。
白濱:睡眠時無呼吸症候群の怖いところは、自分では「ちゃんと寝ている」と思っている方が少なくないことです。当院のスクリーニングでも、不眠や疲れを主訴に来られた方が、実は無呼吸だったというケースが多くあります。最近は「睡眠薬」というキーワードで検索されて来院される方も増えていて、調べてみると睡眠時無呼吸症候群だった、という例も珍しくありません。
柚本:それはまさに「氷山の一角」ですね。症状を自覚していない方が、地域にはまだたくさんいると思います。
3. CPAPの継続が、心臓と血管を守る
柚本:CPAP治療の継続率については、先生のご施設ではどのように対応されていますか?
白濱:当院ではCPAPを使っている患者さんに対して、治療を始める際に『なぜ続けることが大事なのか』を丁寧にお伝えするようにしています。特に響くのは、心臓や血管への影響です。脳卒中や心筋梗塞のリスク、心房細動との関係を具体的に話すと、患者さんの意識が変わることが多いです。継続のカギは、最初の3〜6ヶ月をいかに乗り越えるかですね。当院でも、この時期を重点的にフォローするようにしています。施設に入所されている方のほうが継続しやすいという実感もあり、管理される環境の大切さを感じます。
柚本:90代でもきちんと継続されている方がいると聞いて、驚きました。適切なサポートがあれば年齢は関係ないのですね。
白濱:はい。ある93歳の患者さんは、データを見てLINEで相談してくださるほどです(笑)。会話に多少の繰り返しはありますが、治療への意欲はとても高い。こうした方を見ていると、睡眠医療の可能性を感じます。

4. チェーンストークス呼吸と中枢性無呼吸 ── 循環器疾患との複雑な関係
白濱:循環器疾患を持つ患者さんの中には、閉塞性の無呼吸だけでなく、チェーンストークス呼吸(呼吸が徐々に深くなり、また浅くなってやがて止まるという周期的なパターン)を呈する方もいますね。この点はどのようにお考えですか?
柚本:そうですね。入院中の患者さんに見られることがあり、CPAPで単純に対応できないケースもあります。ASV(適応補助換気:呼吸パターンに合わせて自動調整する特殊な治療器)が選択肢になりますが、心臓の状態によっては使えないこともある。どこまで介入すべきか、体の代償機能として残しておくべきなのかも含めて、まだ議論のあるところですね。
白濱:おっしゃる通りです。この領域はまだエビデンスが積み上がっている最中で、私たちも循環器の先生方と一緒に勉強させていただきながら対応しています。肺高血圧症(PH:肺の血管の圧力が異常に高くなる病気)との関連も最近注目されています。
柚本:PHは今、循環器内科でもホットなテーマになっています。薬の選択肢が広がり、治療への注目度が高まっています。エコー(超音波検査)でTR(三尖弁逆流:心臓の右側の弁がうまく閉じない状態)が見られたときに早めにご相談いただくのが良いかもしれません。
5. 地域連携をもっとスムーズに
白濱:睡眠時無呼吸症候群が疑われる患者さんを専門クリニックに紹介するのは、外来の中で大変なこともあるかと思います。
柚本:率直に言うと、紹介状を書く時間の確保が難しかったり、どこに紹介するかの判断も含めて負担に感じることはあります。ただ、信頼できる窓口が近くにあると、動きやすさがまったく違います。「ここに紹介すれば安心」という場所があるのはとても心強い。
白濱:当院でも、まずは簡易検査(在宅で行える簡単なスクリーニング検査)から始め、必要に応じてPSG(ポリソムノグラフィー:一晩、脳波・呼吸・血中酸素などを詳しく記録する精密検査)へ進む流れを整えています。紹介元の先生方の負担を減らすことも、私たちの大事な役割だと思っています。
柚本:将来的にはPCI(経皮的冠動脈インターベンション:心臓の血管の詰まりをバルーンや網状の筒で広げる治療)、PTA(足などの狭くなった血管をバルーンで膨らませ、血流を改善させるカテーテル治療)、アブレーション(不整脈の原因となる心臓内の異常な部位を、カテーテルで焼灼して正常なリズムに戻す治療)患者様に、無呼吸のスクリーニングがセットで行えるような仕組みができると理想的ですね。一緒に研究のデータを積み上げていくことも視野に入れたいと思っています。
白濱:ぜひ実現させたいですね。数千人の患者さんのデータを持つ私たちと、循環器の現場の先生方が協力すれば、意義のある研究ができると思います。
結び:「眠れない」は体のサイン。一人で抱え込まないで
白濱:最後に、睡眠の悩みを抱えている方や受診を迷っている方へ、一言ずつお伝えできますか?
柚本:「いびきがひどい」「夜中に何度も目が覚める」という症状は、単なる疲れではなく体からのサインかもしれません。特に高血圧・糖尿病・不整脈など循環器系の病気をお持ちの方は、日中に眠気など自覚症状がなくても睡眠時無呼吸症候群が隠れている可能性があります。ぜひ一度、専門の窓口に相談してみてください。
白濱:当院ではまず気軽に受診していただき、必要に応じて在宅での簡単な検査から始めています。「最近眠れていない」「なんとなくだるい」という方も、どうぞ遠慮なくご相談ください。心臓と血管を守るためにも、良質な眠りはとても大切です。

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RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック
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