【睡眠時無呼吸症候群について③】SASの治療方法
本コラムは3回に渡って「睡眠時無呼吸症候群とは」についてお話しております。
先の投稿をお読みでない場合はぜひ順を追ってお読みください。
SASの治療方法
SASは睡眠中の呼吸の異常によって引き起こされます。重要度によって治療方針は変わりますが、いずれの場合でも薬物療法以外の方法がとられます。
CPAP
CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)はSASの最もポピュラーな治療法です。日本呼吸器学会、日本循環器学会からそれぞれ発刊されているSASに関する医療ガイドラインでも、重症SASの第一選択の治療法として推奨されています。
CPAPは1981年にオーストラリアで、コリン・E・サリバン博士によって発明されました。鼻(または鼻と口)にマスクを装着し、口腔(こうくう)内の軟部組織や舌の閉塞を持続的な陽圧換気で開通させることで、低呼吸や無呼吸の頻度を減らします。

SASが重症なほど、治療にはより強力な圧力が必要となります。CPAPで必要な圧力はその人によって異なり、最適な圧力を調べるにはタイトレーション検査(=CPAPを使用しながらの入院PSG検査)有用ですが、現在ではその人にあった圧力を探してくれる「自動圧調整モード」に対応した機種が主流で、PSG検査の結果説明の日に機器を持ち帰ることも可能です。

マウスピース
マウスピースは、歯ぎしりや歯列矯正の時に、よく目にすると思いますが、SAS専用にカスタマイズされたものもあります。SASのある方は下顎が後ろに下がり舌が落ち込むこと(舌根沈下)が多く、 睡眠中に呼吸が止まりやすくなります。OSA用のマウスピースは下顎を前へ突き出し(志村けんさんの〝アイーン〞の口元のような動き)、舌を前方に引っ張ることで無呼吸数を軽減します。マウスピースは軽症から重症のOSAまで処方されることがありますが、「AHIが20以上」の場合、まずはCPAPを開始します。それでもCPAPになじめず他の治療法が必要な場合には、マウスピースも有効な手段となります。
マウスピースは歯科医師によって処方されるため、医科・歯科の密接な連携を当院でも日々心掛けています。
その他の治療方法について
CPAPおよびマウスピースは30年以上の歴史があります。そのため、「無呼吸をどれくらい改善できるのか」「脳卒中になる人をどれくらい減らせるのか」といった医学的根拠(=医学論文)が豊富な治療方法です。
新しい治療方法が古いものを淘汰していくことが医学研究では多いですが、SASの治療は少し特殊です。というのも、いくつもの治療法が、数十年前に発明されたCPAPに戦いを挑んでは敗れてきた歴史があります。SASが診断されると「まずCPAPを試してみて、どうしても合わなかったら別の治療を試す」ということがこの数十年ずっと続いているのです。
・ASV(Adaptive Servo Ventilation):重症心不全に合併する睡眠時無呼吸症候群に対する治療器
・軟口蓋形成術:いわゆる”のどちんこ”を切除する手術。
・口蓋扁桃摘出(核出)術:口蓋扁桃の腫大がSASの原因と考えられる場合に検討される外科手術
実は、久々にCPAP以外の新たな治療法が提供されるようになりました。いったいどんな治療でしょうか?
舌下神経刺激療法(HNS)
舌下神経刺激療法(Hypoglossal Nerve Stimulation: HNS)はCPAPに匹敵する効果が期待されるSASの新たな治療法です。日本では2021年から保険適応となった比較的新しい治療法です。
舌を動かすときに働く「舌下神経」に微弱な電気を送ると、舌が前に突き出ます。HNSでは、睡眠中の呼吸に連動して電気刺激を起こることで、睡眠中の無呼吸を予防します3)。

本体は、ペースメーカーによく似た形状をしており、手術により体内へ植え込んで使用します。ペースメーカーでは本体から伸びた電線が心臓へ向かいますが、HNSでは首周囲の「舌下神経」周囲に向かいます。

CPAPの場合、機器本体が1Kgほどあり、電源ケーブルやマスクを含めると荷物の持ち運びが大変だと感じる方もいらっしゃいます。HNSの場合は、手のひらサイズのリモコンを持ち運ぶだけで治療が可能で、お出かけ先でも手軽にSASの治療が可能です。
HNSの場合も「CPAPが継続困難」であることが前提で、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)であること、体重制限など、いくつか条件はありますが、多くのSASの方にとって選択肢になる治療です。

CPAPが必要なSAS患者さん126名を対象としたアメリカの研究では、HNSを開始して12 か月時点での AHI スコアの中央値は68%(1 時間あたり 無呼吸・低呼吸指数は29.3 →9.0回/時間)と有意な改善を認めたほか、複数の研究でHNSの有効性が確認されています4)。
米国での手術件数は30,000例を超えておりCPAPの代替治療としての地位が確立されている治療法です。日本では治療可能な医療機関が限られており、首都圏を中心に睡眠専門医療機関が集約的にHNSの手術およびフォローアップを行っています。HNSのフォローアップの可能な医療機関は東京都・神奈川県ともに2院ずつと非常に限られています。
・東京都:順天堂大学医学部附属病院、RESM新東京スリープケアクリニック
・神奈川県:RESM新横浜睡眠・呼吸メディカルケアクリニック、太田総合病院
当院(新横浜院・新東京院)はHNS症例の適格検査、術後フォローアップが可能です。
手術可能な提携医院との定期的なHNSカンファレンスも行っております。
他院でCPAPを行っている方でも、自分がHNSの適応があるのか知りたい方はぜひ当院へご連絡ください。
「舌下神経刺激療法専門外来」にてお待ちしております。
まとめ
今回は睡眠時無呼吸症候群(SAS)についてお伝えしました。SASは睡眠中にいびきや無呼吸を呈することで、脳卒中など突然死の原因となる疾患です。日中にいびきをかきながら居眠りしている姿は「怠惰」であると怒られてしまうかもしれません。しかし、その原因は「病」であり、あなたのせいではありません。
SASの診断は一つの検査だけで決まることは稀で、睡眠専門機関をはじめとする入院PSGが実施可能な医療機関での精査が必要となります。SASは突然死のリスクが高い疾患ですが、CPAPによってそのリスクを大きく減らすことができます。
睡眠に関する専門医療を行っている医療機関は日本国内でも少数です。当院は入院PSGの実施からCPAP導入までを行うことが可能であり、舌下神経刺激療法などCPAP以外の治療についての知見もあります。
睡眠時無呼吸症候群をはじめ睡眠の悩みを抱えている方は当院をはじめ睡眠専門医院への受診をぜひ検討してください。
- Marin JM, Carrizo SJ, Agusti AG.et al. Long-term cardiovascular outcomes in men with obstructive sleep apnoea-hypopnoea with or without treatment with continuous positive airway pressure: an observational study. Lancet. 2005 Mar 19-25;365(9464)
- McEvoy RD, Antic NA, Anderson CS,et al. SAVE Investigators and Coordinators. CPAP for Prevention of Cardiovascular Events in Obstructive Sleep Apnea. N Engl J Med. 2016 Sep 8;375(10):919-31.
- Olson MD, Junna MR. Hypoglossal Nerve Stimulation Therapy for the Treatment of Obstructive Sleep Apnea. Neurotherapeutics. 2021 Jan;18(1):91-99
- Strollo PJ Jr, Soose RJ, , Strohl KP etal. STAR Trial Group. Upper-airway stimulation for obstructive sleep apnea. N Engl J Med. 2014 Jan :139-49.
当院は日本睡眠学会専門医療機関として、睡眠検査・評価を実施するための環境を整え日々多くの患者様の睡眠改善に取り組んでおります。睡眠に関するお悩みがございましたらお気軽にご相談ください。