自宅でできる無呼吸検査とは? パルスオキシメトリーと在宅睡眠検査(HSAT)の違いを解説

第1章:睡眠時無呼吸症候群のリスクと見逃されやすさ

見過ごされがちな“いびき”の背後に潜む病とは?
「最近、いびきがひどくて……」
「家族に“夜中、息が止まっていた”と言われた」
「日中に強い眠気があるけれど、夜は寝ているつもり」
こうした訴えをきっかけに、睡眠クリニックを受診される方は少なくありません。
しかし、実はそれらの症状の裏に隠れているのが、睡眠時無呼吸症候群(SAS)です。
SASは「眠りの質」を根本から損なう病気
SASは、眠っている間に繰り返し呼吸が止まる(または極端に弱くなる)疾患です。その結果、以下のような影響が体に及びます。
- 睡眠が浅くなり、夜間の回復力が低下する
- 酸素不足により、心臓や血管に負担がかかる
- 慢性的な睡眠不足状態となり、日中の眠気・集中力低下・事故リスクが高まる
さらに、SASは高血圧・糖尿病・心筋梗塞・脳卒中など、
さまざまな生活習慣病のリスク要因としても知られています。
「太っている男性」だけの病気ではない
SASは「太っている人だけの病気」というイメージがありますが、
実際には体格にかかわらず、誰にでも起こりうる病気です。
特に見落とされやすいのが以下のような方々
- 女性(特に閉経後):症状が「熟睡感の低下」「疲れやすさ」として現れることも
- 高齢者:いびきよりも夜間頻尿・早朝覚醒が目立つ場合も
- やせ型でも顎が小さい・鼻づまりがある方:気道が狭くなりやすい
「夜、ちゃんと寝ているつもりなのに、疲れが取れない」
そんな状態が続く場合は、検査による確認がとても重要です。
気づいたときが“チャンス” まずは簡単な検査から
SASは、生活や仕事に大きく影響を及ぼす可能性がある一方で、
適切に検査・診断し、治療することで十分に対処できる病気です。
そして今は、入院や通院を伴わず、自宅で行える簡易検査から始めることができます。
第2章:機器別の特徴 パルソックス・SAS-2200・WatchPAT の違い
どの機器でも「同じ」ではない
睡眠時無呼吸の検査は、自宅で行える時代になりました。
しかし、使う機器によって得られる情報や検査の正確さには違いがあります。
ここでは、医療現場でよく使用される3種類の機器
- Pulsox(パルソックス)500i
- SAS-2200(あるいはスマートウォッチ)
- WatchPAT
について、それぞれの特徴について記載します。
まずはざっとまとめて記載しました。
次章から、各検査機器の特徴について、お話していきます。

第3章:パルスオキシメトリー検査とは?

もっとも手軽な「スクリーニング検査」
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の初期スクリーニングとして、医療機関で広く使われているのが、
パルスオキシメトリーによる一晩の酸素飽和度モニタリングです。
「指先にクリップのような機器をつけて寝るだけ」と手軽で、
来院当日の貸し出しや、郵送による在宅実施も可能です。
指先に装着するだけの検査のため、負担の小さい検査方法です。
何を測っているのか? SpO₂と脈拍
パルスオキシメトリーは、動脈血の酸素飽和度(SpO₂)を非侵襲的に測定する機器です。
睡眠中にこれを記録することで、次のような情報が得られます。
- 一晩の最低酸素飽和度(SpO₂がどこまで下がったか)
- SpO₂の間欠的な低下パターン(断続的な呼吸停止を示唆)
- 脈拍の変動(無呼吸後の覚醒反応や不整脈の兆候)
特に間歇的な酸素飽和度の低下によりSpO2が3ポイント以上低下する箇所を、
3%ODIとよび、一定時間呼吸の停止があったことの手掛かりとなります。
実際に呼吸が止まったかどうかまでは、フローセンサーがないため評価できませんが、
酸素飽和度の急激な下がりが繰り返されている場合、SASの可能性が高くなります。

判断は「疑いありか、なしか」
パルスオキシメトリー検査は、SASの診断を確定する検査ではありません。
SASが疑われる結果が出た場合、より精密な検査(PSG)への進行が推奨されます。
- 一晩で複数回のSpO₂急落(ODI)
- 同時に脈拍の上昇・変動がある
- 夜間の呼吸苦・いびき・起床時の頭痛などと併存する
第4章:在宅睡眠検査(HSAT)とは?:よりSASが疑わしい方への検査

SpO2以外も調べられる検査
事前の問診で、日中の強い眠気・大きないびき・起床時の頭痛など自覚症状からSASの疑いが強い方へ、
簡易検査として選ばれるのが、在宅睡眠検査(Home Sleep Apnea Test:HSAT)です。
HSATは、自宅で行えるにもかかわらず、
機器の種類にもよりますが、睡眠中の呼吸・いびき・体動・酸素飽和度など、複数の生体情報を同時に記録することができ、SASの診断基準の一つである呼吸障害指数(Respiratory Event Index: REI)を算出することも可能な、より高度な検査です。
REI(呼吸障害指数)とは?
HSATでは、呼吸の気流(鼻口センサー)と、酸素飽和度(SpO₂)をはじめとする生理指標を記録し、
”睡眠検査”1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数(REI)を算出します。
※PSG検査における”AHI”とよく似た指標です。細かい違いについても、すぐ下でご紹介します。
REIが 5以上 で軽症、15以上で中等症、30以上で重症と診断され、
その結果によって追加検査方法を考えます。
場合によってはCPAP(持続陽圧呼吸療法)などの治療が追加検査を待たずに行われることもあります。

SAS-2200をはじめとするほとんどのHSAT機器ではREIの計測が可能です。
一方で、WatchPAT では、REIと異なるpAHI(経皮的無呼吸低呼吸指数:peripheral AHI)という指標を用います。

他の在宅睡眠検査機器とは異なり、「呼吸の流れ(気流)」や「胸腹の動き」ではなく、
PAT信号(末梢動脈トーン)とSpO₂、脈拍の変動から“無呼吸や覚醒反応”を推定します。
pAHIとREIの違い
一般的な簡易検査機器(例:SAS-2200)では、以下のような直接的な呼吸のセンサーを用いて、
1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数=REI(呼吸障害指数)を算出します
- 鼻口センサーによる気流の測定
- 酸素飽和度(SpO₂)の低下
- 体位やいびき音の変化
一方で WatchPAT は、鼻腔センサーを使わずに、指先のプローブから、酸素飽和度や自律神経の反応から間接的に「無呼吸イベント」を検出します。
そのため、「気流の停止」ではなく、「SpO₂の低下+PAT信号の収縮(覚醒反応のマーカー)」の組み合わせによって、pAHI を構成するイベントを認識しています。
また、検査時間の計測方法も異なります。
- REIは「計測時間」1時間当たりの無呼吸・低呼吸を評価
- pAHIは「睡眠時間※」1時間当たりの呼吸・低呼吸を評価
※ WatchPATでの睡眠時間は脈拍や体位から推測したもので、参考所見となります。
SAS-2200もWatchPATも脳波の計測しないため「真の睡眠時間」は計測できません。

HSAT・パルスオキシメトリ検査では計測時間しかわからない。
SASの判断を「自宅で」可能にする
これらのHSAT機器を用いることで、
住み慣れたご自宅で、より詳細な評価が可能となります。
- 「日中の眠気が強く、事故のリスクが心配」
- 「息が止まっていると追われて治療が必要かを知りたい」
- 「睡眠専門医院での診断が必要と言われた」
このようなケースでは、HSATは非常に重要な検査候補となります。
おわりに
簡易検査の結果が悪い場合は…
ODI、REI、pAHIが、高値であるほど睡眠時無呼吸症候群の可能性が高くなります。
SASを正確に診断するには、多くの場合入院によるPSG検査を行うことが必要です。
PSG検査は睡眠専門の医院でしかなかなか実施できないため、
- 入院ってどんな様子なの?
- 荷物や滞在時間はどれくらいなの?
といった質問も多くいただきます。下記のコラムにまとめておりますので、よければご覧ください。

今回は睡眠障害を疑った場合に最初に行われることの多い、簡易検査の種類とその特徴についてお話しました。
当院では、問診票や診察で患者様から伺った内容を基に適切な検査を選び検査を実施しております。
眠れない、起きてしまう、寝苦しい、起床時の倦怠感がひどい、といった睡眠のお悩みが強い場合はぜひ当院へお越しください。