「心臓がドキドキする」のは、夜の呼吸が原因かもしれない

〜睡眠時無呼吸症候群と不整脈の意外な関係〜

「心臓がたまにドキドキする」「脈が乱れる感じがする」——そんな症状を抱えながら、「でも昼間は眠くないし、いびきもないから大丈夫かな」と思っていませんか?実は、心房細動(不整脈の一種)と睡眠時無呼吸症候群(SAS)は深くつながっています。この記事では、その関係と最新の検査技術をわかりやすくお伝えします。

下浦雄大

下浦 雄大

日本睡眠学会認定 総合専門医
日本医師会認定 産業医

RESM新東京スリープメディカルケアクリニック
副院長

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睡眠専門医が、あなたの「眠れない」に答えます。

山梨大学医学部卒業後、循環器内科での臨床経験を経て睡眠医療へ転身。現在はRESM新東京スリープメディカルケアクリニック副院長として、睡眠・循環器・産業医の3領域で診療中。一般クリニックでは対応困難な「過眠症」や「概日リズム睡眠障害」まで、科学的根拠にもとづいた支援を行っています。


RESM新東京スリープメディカルケアクリニック 副院長 下浦 雄大 | 日本睡眠学会認定総合専門医  日本医師会認定産業医

心房細動と睡眠時無呼吸、半数以上が一緒に持っている

「心臓がドキドキする」「脈が乱れる」といった症状で検査を受けると、「心房細動」という不整脈が見つかることがあります。しかしここで、治療をすればそれで解決、とはならないことが多いのです。

実は、心房細動の患者さんの半数以上が、「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」も一緒に持っているということがわかっています。カテーテルアブレーション(心房細動を治す手術)を受ける予定の患者さん197人を対象にした研究では、なんと半数以上がAHI15以上、つまり中等度以上の睡眠時無呼吸を持っていました。

AHI(Apnea Hypopnea Index)とは、1時間あたりに呼吸が止まったり浅くなったりする回数のことです。15回以上が「中等度」とされており、1時間に15回以上、息が詰まっている状態が毎晩続いているということになります。

なぜ「夜の呼吸の問題」が「心臓の不整脈」につながるの?

睡眠時無呼吸は、息が止まるたびに体にさまざまなストレスを与えます。酸素が不足する、血液中に二酸化炭素が増える、胸腔内の圧力が大きく変動する——こうした刺激が積み重なると、心房(心臓の上の部屋)が少しずつ傷み、広がり、最終的に心房細動を起こしやすい状態へと変化していきます。

さらに問題なのは、治療後の再発リスクです。心房細動のカテーテルアブレーション後に、SASを治療せずに放置すると、再発リスクが2倍以上になるというデータがあります(Fein AS et al, JACC 2013)。

ただし、これは裏を返すとチャンスでもあります。同じ研究で、SASがあってもCPAP(シーパップ:睡眠中に気道を広げる治療機器)治療をしっかり続けた患者さんは、SASのない患者さんとほぼ同じ再発率に抑えられていました。つまり、「SASがある+CPAP未治療=再発しやすい」ということであり、CPAPに取り組むことで再発リスクは大きく下げられるのです。アブレーションとCPAP、両方の治療をセットで考えることがとても大切です。

「眠くないから大丈夫」は要注意

睡眠時無呼吸と聞くと、「日中に強い眠気がある」「いびきがひどい」といった症状をイメージする方が多いかもしれません。しかし実際には、自分では気づいていない人がとても多いのがSASの厄介なところです。

日中に眠気を感じない人でも、夜中に何十回も呼吸が止まっているケースは珍しくありません。「眠気がないから自分は大丈夫」と思っていても、睡眠中の呼吸が乱れている可能性は十分にあります。心房細動を持つ方は特に、SASが隠れていないかどうかを一度確認することが大切です。

心房細動を合併したSASの方が、日中の眠気を感じない人が多い

ホルター心電図の進化と、CVHRIという新しい視点

では、どうすればSASを見つけられるのでしょうか。ここで注目したいのが、ホルター心電図の進化です。

従来の24時間型ホルター心電図は、機械本体がある程度の大きさがあり、患者さんは着けたまま帰宅して翌日また来院する必要がありました。解析する技師さんの作業量も多く、患者さん・医療者双方に負担がかかる検査でした。

しかし最近では、小型で薄いシール状のホルター心電図が登場し、7日間・14日間と連続して貼りっぱなしで記録できる機種も出てきています。記録期間が長いほど不整脈を見逃しにくくなるため、診断精度の向上にもつながります。

左:一般的なホルター心電図 右:小型で最長14日使用可能な機種

そして、この長時間ホルターの普及と合わせて注目されているのが、「CVHRI(心拍変動指数)」という解析技術です。

原理の詳細は専門的になりますが、ひとことで言うと「心拍数の微細なゆらぎを見ることで、睡眠中の無呼吸の回数を推定できる」技術です。息が止まるたびに心拍のリズムがわずかに変化します。その周期的なパターンをコンピューターが自動で検出することで、無呼吸の兆候を捉えることができます。研究では、CVHRIとAHIの相関がとても高く、感度83%・特異度88%という精度が確認されています。

つまり、不整脈を調べるためにホルター心電図を装着するだけで、睡眠時無呼吸の兆候も同時に評価できる可能性があるのです。

実はこの「心拍のゆらぎで呼吸状態を推定する」という考え方は、スマートウォッチにも応用されていると考えられています。血中酸素を測定するには数十秒かかるため、数秒単位で起こる無呼吸をリアルタイムで酸素値から追うことは難しいはずです。そこで、スマートウォッチが睡眠中の呼吸状態を検出しているとすれば、おそらくCVHRIと同様の「心拍のゆらぎを応用している」のではないかと推測されます(詳細は各メーカー非公開のためブラックボックスですが)。医療機器と身近なウェアラブル端末の技術が、少しずつ近づいてきているのを感じます。

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不整脈の治療に「睡眠」を加えると、未来が変わる

「夜に心房細動がよく出る」「脈が乱れることが多い」という方は、睡眠中の呼吸が関係している可能性があります。不整脈だけを治療しても、その根っこにあるSASを放置したままだと、同じことが繰り返されやすくなります。

これからの不整脈診療は、「心臓だけを診る」から、「眠れているか・夜の呼吸は大丈夫かまで含めて診る」時代へと変わりつつあります。

「いびきもないし、眠気もない」という方でも、心房細動や不整脈が気になる場合は、ぜひかかりつけの先生や睡眠専門医に「睡眠についてはどうでしょうか?」と相談してみてください。眠りを整えることが、心臓を守ることにつながります。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、医療上のアドバイスではありません。気になる症状がある場合は、必ず担当医師にご相談ください。