糖尿病と睡眠時無呼吸|血糖値・目の合併症と夜の呼吸を睡眠専門医が解説
食事や運動には気をつけている。でも、眠っている間の呼吸はどうでしょうか。糖尿病のある方の中には、本人が気づかないまま睡眠時無呼吸症候群を抱えている人が少なくありません。この記事では、糖尿病の基本と三大合併症、血糖値を整える生活のコツから、睡眠時無呼吸が血糖値や目の合併症とどう関わるのかまで、動画の内容に沿って順に説明します。
まず押さえたい、糖尿病と睡眠の4つのポイント
糖尿病は、食事・運動・体重の管理に加えて、睡眠の面からも見直すことができます。まず合併症を知って定期的に検査を受け、生活習慣を整えます。そのうえで、睡眠時無呼吸による酸素の低下が血糖値や目の合併症に関わる可能性があるため、いびきや日中の眠気がある方は睡眠も確認してみましょう。

4つは、どれか一つで代わりになるものではありません。睡眠の検査や治療を始めても、糖尿病の治療や眼科の定期検診は続けます。
血糖値とインスリン、そして睡眠のつながり
糖尿病は、血液中の糖の濃度(血糖値)が高い状態が続く病気です。食事でとった糖は、すい臓から出るインスリンというホルモンの働きで、筋肉などの細胞に取り込まれてエネルギーとして使われます。インスリンが足りなかったり、効きが悪くなったりすると、糖が血液中に残り、血糖値が下がりにくくなります。

インスリンの効きが悪くなった状態を「インスリン抵抗性」と呼びます。内臓脂肪のたまりすぎや運動不足に加えて、睡眠の質が悪いとインスリンの効きが下がることも分かってきています。日本では、糖尿病が強く疑われる人が約1,000万人と推計されており(厚生労働省 国民健康・栄養調査、2016年)、とても身近な病気です。
自覚症状がなくても進む三大合併症「し・め・じ」
糖尿病は、初期にはほとんど自覚症状がありません。しかし血糖値が高い状態が長く続くと、全身の細い血管が少しずつ傷ついていきます。その結果起こるのが三大合併症で、頭文字をとって「し・め・じ」と覚えられています。

「し」は神経障害で、手足のしびれや痛み、感覚の低下が起こります。「め」は網膜症で、目の奥の網膜の細い血管が傷つき、進行すると失明につながることがあります。「じ」は腎症で、腎臓の働きが落ち、進行すると透析が必要になる場合があります。さらに、太い血管の動脈硬化も進めるため、心筋梗塞や脳梗塞のリスクも高まります。
網膜症は、見えにくさを感じたときには進んでいることがあるため、症状がなくても眼科で定期的に検査を受けることが大切です。
HbA1cで、最近の血糖の傾向を知る
血糖のコントロールの目安としてよく使われるのが、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)です。赤血球の中のヘモグロビンに糖が結びついた割合で、過去1〜2か月の血糖の状態を反映します。その場で測る血糖値が「今の値」なのに対し、HbA1cは「最近の傾向」を表します。

日本糖尿病学会では、合併症を防ぐための目標をHbA1c 7.0%未満としています。ただし、目標の数値は、年齢や合併症、低血糖の起こりやすさなどによって一人ひとり違います。高齢の方では別の目標が設けられていることもあるので、自分の目標値は主治医と確認しておきましょう。
血糖値を整える食事・運動・体重
血糖値を整える基本は、食事・運動・体重の管理です。どれも極端に変えるより、長く続けられる形にすることが大切です。

食事では、甘いものやご飯など一つのものに偏って食べすぎないこと、主食・主菜・副菜のバランスをとること、規則正しく食べることを意識します。野菜から先に食べるなど、食べる順番を工夫するだけでも、食後の血糖値の上がり方は変わります。運動では、ウォーキングのような有酸素運動に加えて、筋肉を使う運動も役立ちます。筋肉は糖をたくさん使ってくれる場所だからです。
特に内臓脂肪がたまるとインスリンの効きが悪くなるため、体重の管理も重要です。禁煙や節酒もあわせて取り組みましょう。薬の調整や食事の制限、運動の強さは自己判断で決めず、医師や管理栄養士と相談してください。持病がある方や、運動で胸の痛みや息切れが出る方は、始める前に主治医に確認しましょう。
1日の食事量は、目標体重と活動量から考える
「1日にどれくらい食べればいいのか」は、糖尿病の食事療法で多くの方が迷うところです。日本糖尿病学会のガイドラインでは、まず身長から目標体重を出し、そこに活動量に応じた係数をかけて、1日のエネルギー量の目安を考えます。

例えば身長160cmの人なら、1.6×1.6×22で目標体重は約56kgです(65歳以上の方では、22〜25の範囲で考えます)。座っている時間が多い人は56kg×25〜30で1日約1,400〜1,700kcal、通勤や家事でよく体を動かす人は56kg×30〜35が目安になります。
この目標体重は、いますぐその体重にしなければならない数字ではありません。今の体重が目標より重い方も、まずは今の体重から数%減らすことを目指し、1日のエネルギーを少しずつ近づけていけば十分です。計算はあくまで目安で、年齢や合併症、血糖値の変動の大きさによって変わります。最終的な量は、医師や管理栄養士と決めていきましょう。
睡眠時無呼吸と血糖値|カギは「間欠的低酸素」
ここからが、睡眠との関係です。睡眠時無呼吸症候群の人は、眠っている間に呼吸が止まったり浅くなったりして、体の中の酸素が下がります。苦しくなって呼吸が戻ると、酸素も戻ります。この「下がる・戻る」が一晩中くり返されることを「間欠的低酸素」と呼びます。

酸素の上下がくり返されると、体はストレスを受けたときのように反応し、交感神経が過剰に働きます。血管や体の中で炎症や酸化ストレスが起こり、睡眠も細切れになります。こうした変化が重なって、インスリンが効きにくくなり、血糖のコントロールが乱れやすくなると考えられています。また、糖尿病と睡眠時無呼吸は、肥満という共通の背景を持つことも多く、両方をあわせて見ていくことが大切です。
睡眠時無呼吸と目の合併症、研究でわかっていること
近年注目されているのが、睡眠時無呼吸と糖尿病網膜症の関係です。網膜は細い血管がびっしりと集まった、とてもデリケートな組織です。間欠的低酸素によって酸素が上がったり下がったりをくり返すと、網膜の細い血管に負担がかかるのではないかと考えられています。

このように関連を示す報告はあるものの、「睡眠時無呼吸があると必ず網膜症が悪化する」とは言い切れません。それでも、血糖・血圧・睡眠をまとめて整えていくことは、目を含めた全身の血管を守ることにつながります。目の見え方で気になることがあれば、糖尿病の主治医や眼科に相談しましょう。
いびき・眠気があるときは、睡眠も相談を
糖尿病のある人が、みな睡眠時無呼吸というわけではありません。また、いびきがあれば必ず無呼吸というわけでもありません。そのうえで、次のようなサインが重なっている方は、一度睡眠についても調べてみる価値があります。

睡眠時無呼吸の検査には、自宅で行う簡易検査や、一晩かけて詳しく調べるPSG(終夜睡眠ポリグラフ検査)があります。無呼吸が見つかった場合の代表的な治療がCPAP(シーパップ)で、寝ている間に空気を送ってのどの通り道を広げます。CPAPで血糖値やHbA1cがはっきり下がるかについては研究で結果が分かれており、CPAPは糖尿病の治療の代わりではありません。糖尿病の薬や食事療法は続けながら、睡眠の治療を組み合わせます。
受診の際は、最近のHbA1cや血糖の記録、飲んでいる薬(お薬手帳)、家族から見たいびきや呼吸の様子をメモして持っていくと相談が進みやすくなります。眠気が強いときは運転を控え、運転中に眠くなったら安全な場所に停車してください。
糖尿病と睡眠は、思っている以上に深く関わっています。まずは合併症を知って眼科を含めた定期検査を続けること、そして食事・運動・体重を続けられる形で整えること。いびきや日中の眠気がある方は、血糖の管理の手がかりを探すつもりで、睡眠についても相談してみてください。
参考文献・出典
- 日本糖尿病学会|糖尿病診療ガイドライン2024(血糖コントロール目標・目標体重とエネルギー摂取量)
- 日本呼吸器学会 ほか|睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020
- 厚生労働省|平成28年 国民健康・栄養調査結果の概要(糖尿病が強く疑われる者の推計)
- Morizane Y, et al. Incidence and causes of visual impairment in Japan: the first nation-wide complete enumeration survey of newly certified visually impaired individuals. Jpn J Ophthalmol. 2019;63(1):26-33.
- Foster GD, et al. Obstructive sleep apnea among obese patients with type 2 diabetes. Diabetes Care. 2009;32(6):1017-1019.
- Altaf QA, et al. Obstructive sleep apnea and retinopathy in patients with type 2 diabetes. A longitudinal study. Am J Respir Crit Care Med. 2017;196(7):892-900.
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療に代わるものではありません。血糖の目標や薬の調整、食事量は、年齢・持病・治療状況によって異なります。必ず担当医にご相談ください。


