自宅でできる精密な睡眠検査:在宅PSGで評価する睡眠時無呼吸症候群について

1. はじめに  睡眠時無呼吸症候群(SAS)と検査の必要性

いびきや日中の強い眠気が気になる方の中には、睡眠時無呼吸症候群(Sleep apnea syndrome : SAS) が隠れている場合があります。SASは単なる「睡眠の質の低下」にとどまらず、高血圧・不整脈・脳卒中・心筋梗塞などのリスクを高めることが知られています。そのため、早期に気づき、正しく診断を受けることがとても大切です。

ただし、SASの症状や重症度は人によって大きく異なり、「いびきがある=必ずSAS」ではありません。逆に、いびきをほとんどかかない方でも無呼吸が潜んでいることもあります。
そのため、客観的な検査による評価 が欠かせません。

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SASの概要や治療法についてもっと詳しく知りたい方は、以前まとめた記事をご覧ください。


このコラムでは、従来の入院検査に加えて近年広まりつつある 「在宅PSG検査」 に焦点を当て、具体的にどのような検査なのか、また睡眠時無呼吸症候群の診断に使えるのかを解説していきます。

2. 在宅PSG検査とは?

PSG(終夜睡眠ポリグラフ検査)の基本

睡眠時無呼吸症候群を正確に診断するための「ゴールドスタンダード」とされる検査が、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG: polysomnography)です。
PSGでは、以下のように睡眠に関わる複数の生体信号を一晩かけて同時に記録します。

  • 脳波計:睡眠時間、睡眠の深さなどを測定
  • 心電図:心拍の変動を記録
  • 呼吸センサー:鼻や口からの気流を測定し、無呼吸・低呼吸の有無を確認
  • 酸素センサー:指先に装着し、血中酸素濃度を測定
  • 筋電図:下顎や四肢の筋肉の緊張を確認

これらを組み合わせて解析することで、睡眠時無呼吸の有無や重症度を判定します。

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従来の入院PSGとの違い

従来のPSGは、睡眠センターや病院に一泊入院し、多数のセンサーを装着して行う必要がありました。確実で精密な検査ですが、

  • 「病院で寝られるか不安
  • 入院の時間をとりにくい
  • 検査予約が混んでいて数か月待ちになる」
    といった課題もあります。

これらの解決策の一つが 「在宅PSG検査」 です。これは、自宅で一晩センサーを装着し、病院と同じように脳波・呼吸・心拍などを記録できる検査です。自然な睡眠環境で行えるため、より普段の睡眠に近いデータが得られる利点もあります。

在宅PSGで測定できる項目

近年の機器の進歩により、在宅PSGでも以下の項目を測定できるようになっています。

  • 脳波(睡眠段階の判定が可能)
  • 呼吸の流れ・胸腹部の動き
  • 心電図
  • 酸素飽和度
  • いびき音・体位

これにより、従来の「簡易検査(酸素や呼吸のみを測定)」と比べて、精度の高い診断が可能になっています。

3. 在宅PSGに用いる機器:スリープ・プロファイラー PSG2

特徴

当院で在宅PSG検査に使用しているのは、「スリープ・プロファイラー PSG2」 という検査機器です。
従来のPSGと比べて装着がシンプルで、自宅でも扱いやすいように設計されています。

  • 脳波を計測できる数少ない在宅機器
    → おでこにセンサーを装着するだけで、睡眠の深さや質を判定可能。
  • 呼吸の状態を詳細に記録
    → 鼻と口の気流、胸やお腹の動きから、無呼吸や低呼吸を検出。
  • 心電図・酸素飽和度も同時に測定
    → 睡眠中の低酸素状態や不整脈の有無を確認できる。
  • コンパクト設計
    → センサー数が少なく、従来より快適に眠りやすい。

装着イメージ

スリープ・プロファイラー PSG2は、おでこ・胸・指先などにセンサーを取り付けるだけで検査ができます。多数の電極やケーブルに囲まれる入院PSGと比べて、在宅でも自然な睡眠が得られやすいのが大きな利点です。

データ解析

記録されたデータは病院に返却後、専門の解析ソフトで判定されます。これにより、

  • 睡眠段階(浅い眠り・深い眠り・レム睡眠)
  • 無呼吸・低呼吸の回数
  • 酸素の低下や心拍変動
    などが詳しくわかります。

当法人は、「新横浜」「新東京」の有床医療機関に加えて、「RESM在宅検査センター」も併設しており症例に応じたPSG検査を提供することが可能です。在宅でのPSG検査ご興味がある患者さまは当院を受診される際にお申し付けください。

研究によるエビデンス

世界的に行われている比較研究では、在宅PSGと入院PSGとの診断精度は高く、

  • 中等症以上の睡眠時無呼吸を検出する感度・特異度はいずれも80〜90%以上(Rosenら, JAMA 2012)
  • AHI(無呼吸低呼吸指数)の一致度は高く、臨床判断に十分利用可能(Malhotraら, Chest 2020)
    と報告されています。
    また、米国睡眠医学会(AASM)の診断基準でも、適切に使用すれば在宅PSGは診断に有効であることが記載されています。

以上の経過から睡眠時無呼吸症候群の診断および重症度評価を行うことに関しては、在宅PSG検査は、入院検査と比較しても劣らない検査であると考えられます。

患者さんにとっても、病院へ泊まる負担を減らしながら正確な評価を受けられる有力な検査手段といえます。

4. 在宅PSG検査のメリットと注意点

自然な睡眠環境での検査

入院PSGでは「病院で一晩眠る」必要がありますが、普段と違う環境でなかなか寝つけない方も少なくありません。在宅PSGは ご自宅での検査 となるため、より自然な睡眠に近い状態でデータを取ることができます。普段の睡眠習慣を反映した結果が得られるのは、大きなメリットです。

通院・入院負担の軽減

入院PSGでは検査のために一泊入院が必要ですが、在宅PSGなら 機器を持ち帰って自宅で行える ため、入院に関連した費用の負担がかかりません。お仕事や育児で入院の都合がつきにくい方にとっても、受けやすい検査です。

解析や重症度評価の限界

一方で注意点もあります。

  • 在宅PSGは高精度な機器を使うものの、入院PSGほど多項目・長時間のモニタリングはできません
  • 特殊な睡眠障害(むずむず脚症候群やレム睡眠行動障害など)が疑われる場合は、より詳細な入院PSGが必要となることがあります。
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つまり、在宅PSGは SASの診断や重症度判定には十分有効ですが、「すべての睡眠障害に万能」というわけではありません。医師の判断のもと、必要に応じて入院PSGとの使い分けを行います。

第5章:当院での在宅PSG検査のご案内 個人・法人の担当者様へ

検査の流れ 個人での診察の流れ

  1. 予約
    医師の診察で在宅PSG検査が必要と判断された場合、検査をご予約いただきます。
  2. 機器貸出
    機器の貸出は「在宅検査センター」から郵送手配いたします。
    スタッフが装着方法や注意点をご説明します。
  3. 自宅で検査
    ご自宅で普段どおり就寝いただきながら、1晩センサーを装着して睡眠を記録します。
  4. データ解析
    検査後に機器を郵送にて返却していただき、専門医師・技師が詳細にデータを解析します。
  5. 診断
    後日、解析結果をもとに診断を行い、必要に応じて治療方針(CPAP治療や生活指導など)をご案内します。

. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)が企業へ与えるリスク

  • SASは 日中の眠気・集中力低下・交通事故リスク を高め、従業員の労働災害や生産性低下にもつながります。
  • 高血圧・心疾患・脳卒中とも関連し、個人の健康だけでなく、企業の健康管理・医療費負担にも影響を及ぼします。

法人導入のメリット

  • 受診率向上:自宅でできるためハードルが低く、従業員の検査参加率が高まります。
  • 労災リスク低減:無呼吸の早期診断・治療は交通事故や作業中事故の予防に直結します。
  • 健康経営の推進:企業の社会的信用・従業員満足度の向上につながります。
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法人単位での検査にご興味のある方はこちらからお問い合わせください

在宅PSGは、入院せずに自然な睡眠環境で行える有効な診断手段です。
当院でも実施可能ですので、いびきや日中の眠気、睡眠時無呼吸症候群が心配な方は、どうぞお気軽にご相談ください。

当院で行っている診療について

睡眠や健康について、より深く知りたい方はこちらもどうぞ。

検査を検討されている方はこちらをご覧ください。

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