ゼップバウンドと睡眠時無呼吸症候群|適応条件・効果・CPAPとの併用を専門医が解説

ゼップバウンドと睡眠時無呼吸症候群:対象と治療の考え方

「ゼップバウンドで睡眠時無呼吸は改善する?」「CPAPをやめられる?」と気になっている方へ。ゼップバウンド(一般名:チルゼパチド)は、2026年5月18日、BMI 27kg/m²以上の中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群に対して、国内で適応追加承認を取得しました。本記事では、対象となる条件、臨床試験で分かった効果と限界、CPAPとの組み合わせを解説します。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)のうち、睡眠中に喉の空気の通り道がふさがるタイプを「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA/OSAS)」といいます。この記事で扱う薬の対象はOSAです。すべての睡眠時無呼吸や、いびきだけを対象にする薬ではありません。

※当院では、ゼップバウンドによる治療・処方は実施していませんが、必要に応じて、連携先の肥満症外来へご紹介することが可能です。まずは診察時にご相談ください。

下浦雄大

下浦 雄大

日本睡眠学会認定 総合専門医
日本医師会認定 産業医

RESM新東京スリープメディカルケアクリニック
副院長

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睡眠専門医が、あなたの「眠れない」に答えます。

山梨大学医学部卒業後、循環器内科での臨床経験を経て睡眠医療へ転身。現在はRESM新東京スリープメディカルケアクリニック副院長として、睡眠・循環器・産業医の3領域で診療中。一般クリニックでは対応困難な「過眠症」や「概日リズム睡眠障害」まで、科学的根拠にもとづいた支援を行っています。


RESM新東京スリープメディカルケアクリニック 副院長 下浦 雄大 | 日本睡眠学会認定総合専門医  日本医師会認定産業医

「肥満」と「肥満症」——治療の前提となる疾患概念の整理

実は「肥満」と「肥満症」は明確に区別される概念です。

肥満とは、BMI 25kg/m²以上の状態を指す形態的な分類であり、それ自体は疾患ではありません。

一方、肥満症は、BMI 25kg/m²以上で、肥満に関連する健康障害がある、または内臓脂肪型肥満と判断される場合に診断される、医学的治療の対象となる疾患です。腹囲(男性85cm以上・女性90cm以上)は内臓脂肪蓄積を疑う目安であり、腹囲だけで肥満症と診断するわけではありません。内臓脂肪型肥満は、腹部CTなどによる内臓脂肪面積100cm²以上を基準に評価します。

日本肥満学会の肥満症診療ガイドラインでは、肥満が引き起こす代表的な健康障害として以下の11疾患を定めており、OSAもそのひとつに含まれます。

  • 耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常)
  • 脂質異常症 / 高血圧 / 高尿酸血症・痛風
  • 冠動脈疾患 / 脳梗塞・脳血管疾患
  • 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
  • 月経異常・不妊 / 整形外科的疾患 / 肥満関連腎臓病
  • 睡眠時無呼吸症候群(SAS)・肥満低換気症候群

OSAを有する肥満患者においては、「ダイエット」ではなく「肥満症という疾患の治療」として減量介入を行うことが、診療の出発点となります。

肥満とSASの「負のループ」を理解する

肥満によって首や舌の周囲に脂肪が増えると、睡眠中に気道が狭くなり、OSAの発症・悪化につながります。一方、睡眠の乱れや日中の眠気は、活動量や食行動にも影響し、体重管理を難しくすることがあります。

  • 活動量の低下:日中の過度の眠気(EDS)による身体活動量の減少と、それに伴う消費カロリーの低下
  • 代謝への影響:低酸素や睡眠の分断に伴う交感神経活動の高まりなどが、血糖調節に影響する可能性があります。
  • 食行動への影響:睡眠不足や睡眠の乱れは、食欲や食べ物の選び方に影響することがあります。ホルモンの変化は一律ではありません。

体重が減りにくいことを、意志の弱さだけで説明することはできません。睡眠、食事、活動量、生活環境などを一緒に確認し、OSAと肥満症の両方を治療していくことが大切です。

肥満症診療ガイドラインに基づく生活習慣介入

薬物療法を検討する場合も、食事・運動・行動面の支援が治療の土台です。肥満症診療ガイドライン2022では、高度肥満症に該当しない場合、初期目標は3〜6か月で現体重の3%以上の減量です。BMI 35以上の高度肥満症では、健康障害に応じて5〜10%を目指すなど、目標を個別に設定します。

例えば体重80kgの方なら、3%は2.4kgです。少量の減量でも血圧・血糖・脂質などの改善が期待できます。ただし、体重が3%減れば睡眠時無呼吸も治る、という意味ではありません。効果には個人差があり、睡眠検査による評価が必要です。

具体的なアプローチとして以下の3つが挙げられます。

① 食事療法(摂取エネルギーの適正化)

食事量は、標準体重(身長m × 身長m × 22)に加え、年齢、活動量、持病、筋肉量などを踏まえて医師・管理栄養士と相談して決めます。肥満症の治療食では、標準体重1kgあたり25kcal/日以下が設定の目安となりますが、自己判断で一律に制限するものではありません。

例:身長173cmでは標準体重は約65.8kgで、25kcalを掛けると約1,650kcal/日です。これは計算例であり、すべての方に適した摂取量を示すものではありません。

極端なカロリー制限は骨格筋の減少と基礎代謝の低下を招くため推奨されません。炭水化物・たんぱく質・脂質のバランス(PFCバランス)の適正化と、深夜の食事摂取を避ける食行動の改善を並行して指導します。

② 運動療法(有酸素運動+レジスタンス運動)

ウォーキングなどの有酸素運動と、スクワットなどの筋力トレーニングを組み合わせます。短時間から始め、体調や関節・心臓の状態に合わせて少しずつ増やしましょう。筋肉を保ちながら無理なく続けられる運動を、担当医と相談して選ぶことが大切です。

③ 行動療法(自己モニタリングと食行動の修正)

毎日一定時間に体重を測定・記録する「グラフ化体重日記」の活用が推奨されます。自己行動と体重変動の因果関係を可視化することで、ストレス食い・早食いなど食行動の偏りを患者自身が認識し、修正するプロセスを促します。

新たな治療選択肢:ゼップバウンドのOSA適応承認

ゼップバウンド皮下注10mgアテオスの注射器と外箱

2026年5月18日、ゼップバウンドにOSAの適応が追加され、肥満症の適応条件も拡大されました。4月の部会での「了承」と、5月の正式な「承認」は区別する必要があります。日本イーライリリー・田辺ファーマの発表(2026年6月1日)で確認できます。

承認① 肥満症の適応条件の拡大

肥満症の効能・効果に記載された健康障害の条件が「高血圧、脂質異常症又は耐糖能障害(2型糖尿病、耐糖能異常等)」へ拡大されました。ただし、耐糖能異常があるだけで処方対象になるわけではありません。食事・運動療法で十分な効果が得られないことに加え、BMI 27以上で肥満に関連する健康障害が2つ以上ある、またはBMI 35以上などの条件があります。

承認② 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)への新規適応

OSAに対する承認上の対象は、中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸症候群で、BMI 27kg/m²以上の方です。週1回の皮下注射で、少量から段階的に増量します。投与量や増量の可否は、副作用や体調を確認しながら処方医が判断します。

実際の治療には、承認上の条件に加えて最適使用推進ガイドライン(OSA、2026年5月)の確認が必要です。原則BMI 30以上が対象で、BMI 27以上30未満の方は必要性を慎重に判断します。原則として、処方施設で3か月以上の食事・運動療法と管理栄養士による指導を受けても十分な減量が得られないことなど、患者さん・医療機関双方の要件があります。一部例外もあるため、紹介先で確認します。

ゼップバウンドでどのくらい改善する?SURMOUNT-OSA試験

主要な根拠は、薬とプラセボ(有効成分を含まない注射)を比較したSURMOUNT-OSA試験です。以下は原著論文(Malhotraら、2024年)の主要解析にそろえた数値です。

試験デザイン

対象は中等症〜重症OSAかつ肥満の成人469人で、BMIの参加基準は30以上(日本では27以上)でした。糖尿病のある方は除外されています。両群が食事・運動の支援を受け、52週間比較されました。
Trial 1:PAPを使用していない方
Trial 2:PAPを使用している方
各試験でチルゼパチド10mgまたは15mgとプラセボに無作為に割り付けました。AHIは睡眠1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数です。

主要評価項目(AHIの変化)

  • Trial 1:チルゼパチド群で25.3回/時間減少、プラセボ群で5.3回/時間減少。群間差は20.0回/時間でした。
  • Trial 2:チルゼパチド群で29.3回/時間減少、プラセボ群で5.5回/時間減少。群間差は23.8回/時間でした。

副次評価項目

  • 体重減少率:チルゼパチド群はTrial 1で17.7%、Trial 2で19.6%。プラセボ群はそれぞれ1.6%、2.3%でした。
  • AHI 5未満、またはAHI 5〜14かつ眠気の質問票(ESS)10点以下に達した割合は42.2%/50.2%(プラセボ15.9%/14.3%)。「約半数が完治した」という結果ではなく、眠気の強くない軽症OSAも含む指標です。
  • 血圧、炎症の指標、睡眠に関する患者報告指標などにも改善がみられました。

両試験で改善がみられましたが、PAP併用の有無による効果が「同等」と証明されたわけではありません。Trial 2の睡眠検査は、研究手順としてPAPを7日間休止して評価しています。この研究手順をまねて、自己判断でCPAPを休止しないでください。52週間の成績であり、薬を中止した後の長期的な治癒や、心筋梗塞・脳卒中の予防を証明した試験ではありません。

ゼップバウンドの副作用と治療期間

吐き気、下痢、便秘、嘔吐などの胃腸症状がみられます。膵炎や胆嚢・胆道の病気、脱水などにも注意が必要です。強い腹痛が続く、嘔吐を伴う激しい腹痛がある場合は、使用を中止し、速やかに医療機関へ相談してください。妊娠中や妊娠の可能性がある方には使用しません。持病や使用中の薬を処方医に伝えてください。

OSAに対する最適使用推進ガイドラインでは、投与期間は最大52週間とされ、途中で体重や睡眠検査による効果を確認します。中止後も食事・運動療法と経過観察を続ける計画が必要です。詳しい安全性・継続条件は同ガイドラインをご参照ください。

CPAPはやめられる?減量治療との組み合わせ

CPAP(シーパップ)は、マスクから空気を送り、睡眠中の気道を開いて無呼吸・低呼吸を抑える治療です。減量に取り組んでいる間も、必要な方は継続します。心血管イベントの予防効果は研究条件によって結果が異なり、「導入すれば直ちに心筋梗塞や脳卒中を防げる」とは断定できません。SAVE試験でも、症状の改善と心血管イベント予防は区別して評価されています。

今後の治療戦略として以下のようなアプローチが検討されます。

① 無呼吸を抑えながら、減量治療を検討する

睡眠検査の結果や眠気などに応じてCPAPを導入・継続し、食事・運動療法を進めます。ゼップバウンドは、対象条件を満たす方について、紹介先の医師が利益と副作用を検討したうえで使用を判断します。

② 体重や症状に合わせてCPAP設定を見直す

減量によって、気道を開いておくために必要なCPAP圧が変わることがあります。空気が強い、マスクが合わないなどの違和感があれば、担当医に相談してください。圧の設定は、使用データや症状を確認して調整します。

③ 睡眠検査で再評価し、治療の継続を判断する

十分な改善が得られた場合は、睡眠検査や症状を再評価してCPAPの継続・変更を判断します。体重が減った、いびきが軽くなったという理由だけで、CPAPを自己判断で中止しないでください。中止できるかは個別の判断であり、その後も再発・悪化がないか確認が必要です。

生活習慣への支援、CPAP、適応に合った薬物療法を組み合わせ、無呼吸や眠気、日常生活の負担を減らすことが目標です。治療方法は、検査結果、持病、ご本人の希望に合わせて選びます。

当院への相談と、連携先の肥満症外来への紹介

当院ではゼップバウンドによる治療・処方は実施していませんが、連携先の肥満症外来へご紹介することが可能です。当院で睡眠時無呼吸の状態や現在の治療を確認し、必要に応じて紹介をご案内します。ゼップバウンドの使用可否や費用は、紹介先での診察・対象条件の確認を経て決まります。紹介によって処方が確約されるわけではありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。治療の適応や変更は担当医とご相談ください。承認・最適使用推進ガイドラインの情報確認日:2026年9月5日。

Malhotra A, Grunstein RR, Fietze I, et al. Tirzepatide for the Treatment of Obstructive Sleep Apnea and Obesity. N Engl J Med. 2024;391:1193-1205. doi:10.1056/NEJMoa2404881
日本肥満学会編『肥満症診療ガイドライン2022』。肥満症の定義・治療目標は学会ガイドライン解説論文も参照。